中小企業診断士試験は一般に難関試験に分類され、社会保険労務士などとよく比較されます。ここではなぜ中小企業診断士試験の合格が難しいのかをいくつかの点から考えていきたいと思います。
試験問題の難易度はどれくらい?
まずは試験問題の難易度を客観的に見ていきたいと思います。
合格に必要な学習時間は?
合格のために必要な学習時間から難易度を考えていきます。他の難関と言われる資格との比較をしてみました。
弁護士/6,000時間
弁理士/3,000時間
公認会計士/3,000時間
税理士/3,000時間
社会保険労務士/1,000時間
中小企業診断士/1,000時間
1級建築士/800時間
簿記1級/800時間
この表だけ見ると、結構簡単なんじゃないかと思ってしまいますが完全に錯覚です。比べているのが資格試験の最高峰なのでそう見えてしまうだけです。
中小企業診断士合格に必要な学習時間1,000時間がどれくらいかというと、、、
平日2時間、土日祝日5時間の学習を毎日必ず続けるとして、
平日2時間×250日 + 土日祝日5時間×115 = 1,075時間
このペースでの学習を1日も休まず続けて、1年間でやっと合格できる難易度ということです。時間の捻出がなかなか難しい気がします。
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しかし公認会計士、弁理士等の難易度を考えると気が遠くなりますね。このペースを3年間続けるって・・・普通の生活をしながらじゃあ無理なような気がします。
私の友人で弁理士資格を持っている者がいますが、彼は水曜日の夜と土日全てを予備校通い+自宅学習という生活を丸2年送っていました。飲みに誘っても一切参加せず、上に書いた平日2時間、土日祝日5時間を超えるペースで学習していたように見えました。
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出題範囲は?
次に出題範囲についてです。
中小企業診断士の合格が難しい理由として出題範囲が広いことが挙げられます。
1次試験の出題範囲
1次試験の科目は下記の7科目です。平均60点を取れば合格できるため、広く浅くという感覚での学習でOKなのですが、それでもこれだけの出題範囲があると、学習内容は多くなります。
また、科目が多いためどうしても苦手科目が出てきてしまうというところも試験の難易度を上げている点です。
<1次試験の出題科目> ・経済学、経済政策 ・財務、会計 ・企業経営理論 ・運営管理 ・経営法務 ・経営情報システム ・中小企業経営、中小企業政策 |
2次試験の出題範囲
2次試験の出題範囲は基本的には1次試験と変わらないため、追加で新たに覚える内容はありません。ただし1次試験とは異なる特有の難しさがあります。
2次試験に合格するには、1次試験で覚えた専門知識を応用し、読解力、作文力、論理力や2次試験攻略のテクニックを駆使することが必要になるため、合格のためにはそれらを身に付ける学習をする必要があります。
<2次試験の出題科目> ・事例Ⅰ 組織、人事に関するを中心とした経営の戦略及び管理に関する事例 ・事例Ⅱ マーケティング、流通を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例 ・事例Ⅲ 生産、技術を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例 ・事例Ⅳ 財務、会計を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例 |
試験の合格率は?
3つ目は試験の合格率についてです。以下に、直近10年の中小企業診断士試験の合格率を表とグラフの形で記載しました。
1次試験は年ごとの合格率の振れ幅が大きいですが、毎年およそ20%、2次試験は年ごとの振れ幅が小さく、こちらも合格率はおよそ20%です。
1次、2次試験を合わせると合格率は4%と非常に小さい数値になります。
ちなみに、冒頭に挙げた公認会計士の合格率が10%程度なので、合格率4%というのはかなりの難易度と言えます。
(ただし合格率=難易度ではないのであくまで目安ですが)
1次試験の合格率
年 | 申込者数 | 合格率 |
平成21 | 20,054 | 24.1% |
平成22 | 21,309 | 15.9% |
平成23 | 21,145 | 16.4% |
平成24 | 20,210 | 23.5% |
平成25 | 20,005 | 21.7% |
平成26 | 19,538 | 23.2% |
平成27 | 18,361 | 26.0% |
平成28 | 19,444 | 17.7% |
平成29 | 20,118 | 21.7% |
平成30 | 20,116 | 23.5% |
出典:中小企業診断協会公表値
2次試験の合格率
年 | 申込者数 | 合格率 |
平成21 | 5,489 | 17.8% |
平成22 | 4,896 | 19.5% |
平成23 | 4,142 | 19.7% |
平成24 | 5,032 | 25.0% |
平成25 | 5,078 | 18.5% |
平成26 | 5,058 | 24.3% |
平成27 | 5,130 | 19.1% |
平成28 | 4,539 | 19.2% |
平成29 | 4,453 | 19.4% |
平成30 | 4,978 | 18.8% |
出典:中小企業診断協会公表値
合格基準
次は見方を変えて中小企業診断士試験の合格基準から試験の難易度を考えていきたいと思います。
1次試験の合格基準
合格基準
1次試験の合格基準は、
7科目の合計点が420点以上であり、かつ40点未満の科目が1科目も無いこと
です。
科目合格制度について
1次試験には科目合格の制度があり、先ほど記載した合格基準を満たしていなくても、60点以上取れた科目については最大3年間合格を持ち越すことができます。
3年以内に7科目全てに合格することができると、その年と翌年の2回、2次試験を受験することができます。
以上のように科目合格制度があったり、得意科目があれば苦手科目での低得点を補うことができたりと、1次試験は、制度としては合格しやすい作りになっています。
2次試験の合格基準
次は2次試験の合格基準です。中小企業診断士試験の合格が難しい1番の理由は、この2次試験の合格基準が高いことに尽きると思います。
合格基準
試験の案内冊子に書かれている合格基準は、
4科目の合計点が240点以上であり、かつ40点未満の科目が1科目も無いこと
です。
2次試験合格基準の注意点
2次試験の合格基準は、一見1次試験と同様に見えますが、実質的な合格基準は受験者の中で成績上位20%と言われています。公表されている2次試験の合格率データを見てみると、確かに例年20%前後で推移しており、信憑性はありそうです。
この合格基準が正しいとなると、試験の難易度はその年の受験生のレベルによって上下してしまうということになります。
なぜ2次試験の合格基準が成績上位20%なのか?
合格基準が成績上位20%の理由は、試験合格後の実務補習の対応のためであると言われています。
中小企業診断士試験は試験に合格しただけでは中小企業診断士として登録することができません。合格後に15日間の実務補習を受講する必要があります。
実務補習の内容は、実際に中小企業診断士として活動されている先生が最大6名の生徒を付けて実際の診断業務を経験させるというものです。
以上の状況のため、実務補習を引き受けてくれる先生の人数キャパの制約から、合格者の数も制限されてしまいます。
まとめ
ここまでお話ししてきた、中小企業診断士試験の合格がなぜ難しいのか?についてまとめます。
- 試験対策の勉強時間が1,000時間
- 出題範囲が広い(特に1次試験)
- 読解力、論理力、作文力、解答テクニックの総合的な力が必要(2次試験)
- 2次試験の実質的な合格率が成績上位20%
以上の中で1番のポイントは、「2次試験の実質的な合格率が成績上位20%」です。
ただでさえ難易度が高く、出題にクセもあり対策が難しいと言われている2次試験ですが、成績上位20%しか合格しないとなると難易度は跳ね上がります。勉強の目標が、「何点取ること」から、「優秀な受験生達に打ち勝つこと」に変わってしまいますからね。
以上、中小企業診断士試験がなぜ難しいのかについてお話ししました。これだけ見ていると受験が嫌になってしまうかもしれません。
でも中小企業診断士試験というのは経営コンサルタントとして国が認めた唯一の資格です。取得のレベルが相応に高いのは仕方ありません。
2次試験合格のために優秀な受験生達に勝ち、成績上位20%以内に入るという点も、必要以上に気にしないで良いです。受験生の中には、申込んだは良いが、ほとんど勉強が出来ずに当日受験しない方、受験会場には来るがまともに回答できない方がいます。試験本番の時点で勉強が足らず、合格できないことを自分で分かっている方もいます。このような人たちが50%はいるのではないでしょうか。
他にも、勉強はそれなりにしたものの、苦手なポイントがあるのを分かっていて放置する等、合格を運任せにする方がいます。先ほどの方々と合わせると受験生の70%くらいになるのではないかと思います。
つまり、十分な学習をし、自信を持って受験している状態になれれば、その時点で上位30%に入っているということです。(%の数字に根拠はありません。でも考え方はそれほど外していないはず。)